ストーリー
大阪。スカジャン姿で自転車に乗る辰巳ユリ(馬場ふみか)が、とある安アパートへと帰ってくる。そこは、住人たちがゆる~くつながりながら暮らす「コーポ」。お湯もでなけりゃ、風呂もなし。だが、個性豊かな住人同士が顔を合わせるたびに、何かと声を掛け合っている。
宮地友三(笹野高史)が、「管理人さんが家賃回収に来よるで~」「取り立てやで~」とみんなに声を駆けて回ると、すかさず住人たちが外へ飛び出していく。「あぁ……」と呆然とし、外で猫を抱いて寝ていたユリを見つけてこう告げる。「ユリちゃん、山口さん死によった」。
首つり自殺を図った山口をみんなで引っ張り下ろし、警察へと連絡する一方、冷蔵庫や電子レンジなど拾ってきた無数の家電で埋め尽くされた山口の部屋から、欲しいものを見繕う。冷蔵庫のきゅうりを宮地がみんなで分け合うと、石田鉄平(倉悠貴)が「山口さん、首括る前の日、オレんとこに金借りに来たけど、断ってしもた」と言い出した。「オレがなんぼかでも貸しとったら……山口さん、死なんで済んだやろか」と悲嘆に暮れる石田に、「まぁ、そんな気ぃ落としなや、石田くん」「そうやで」「そうだよ」と宮地とユリ、スーツ姿の中条紘(東出昌大)が声をかけるなか、恵美子(藤原しおり)がふらりとやってきて、「石田くん、マイセンとわかば交換しよう」と、タバコの交換を持ち掛ける。どうやら、生前の山口が借金を頼んで断っていたのは、石田だけではなかった様子で……。
【辰巳ユリ】
ある日、コーポの外で猫を抱えて座り込んでいたユリのもとへ、弟のカズオ(前田旺志郎)が突然訪ねてくる。祖母が入院する病院に向かうユリだったが、折り合いの悪い母親(片岡礼子)と鉢合わせ。強烈なビンタを食らう。
ユリは、祖母から借りた専門学校の学費を返すため、居酒屋の店員として働く日々。カズオから、同棲中の彼女が妊娠4か月で出産を希望しているが、彼女には連れ子もおり、「急に父親になれって言われてもな・・・。俺も逃げようと思ってんねん。姉ちゃんも逃げたんちゃう?」と言われ、ユリは複雑な気持ちに。
【石田鉄平】
日雇いの建築現場で働く石田は、女にモテるがキレやすい。父から「自分の限界に気付け、ボケ!」と殴られ、己の不甲斐なさに打ちひしがれる。ある日、職場にアルバイトにやってきた女子大生の高橋(北村優衣)が、石田に借りた雨合羽とタオルを返しにサクランボを持ってコーポを訪れたことから、住人たちと、住む世界が違うはずの清純な高橋の交流が始まる。
【中条紘】
どんなときでもスーツ姿で文豪のような話し方をする。甘いルックスで口説いては、架空の身の上話をでっち上げ、女に貢がせている。廊下でたまたま顔を合わせたユリにも「九州のある島の裕福な家庭で育ったが、父の後妻と駆け落ちしようとした矢先に彼女が自殺してしまい、自分だけ島を出てきた」と身の上を打ち明ける。だが、ユリは本気にしない。
【宮地友三】
コーポの2階でストリップショーの興行師をしながら日銭を稼ぐ日々。カーテンで仕切っただけの畳の部屋で、ろうそくの炎が消えるまでの数分間、「踊り子さん」がストリップを披露する。ある日、契約を終えコーポを去る踊り子から、「なんとお礼をしたらいいか――」と迫られた宮地は「お礼ならいらんで~」と拒みつつ、「それでしたら、どうぞこの火が消えるまで……」とマッチを渡され、息をのむ。
***
ある日、山口が収集した家電をバザーで売り払おうとしていた矢先、彼の息子が遺品を引き取りに来る。一致団結しながらなんとかその場を取り繕い、家電をトラックに詰め込む住人たち。山口の息子が置いていった「心付け」で寿司を取り、コーポの玄関先で宴会が始まる。
「ぼちぼち生きてたら、ええこともあるんや」。愛おしい日々が、今日も明け暮れる――。
コメント
何があってもなくても、ただ生きているから今日も生きていく。ぶっきらぼうなようで、優しく繊細に他人の心を感じるユリでした。周りの環境に少しずつ影響を受けながらも、決して流されるわけではなく、淡々と日々を生きていくユリの姿はとても愛おしかったです。「どうしようもないなぁ」と思うけれど、なんだか愛せるコーポの住人たちと彼らを取り巻く様々な環境。少しずつ変化し、ゆらぎながらも暖かく存在し続ける…そんな映画になっていると思います。劇場でこの“ゆらぎ”を体感してほしいです。