昭和レトロな雰囲気を醸し出す大阪の安アパート・コーポを舞台に、年齢も性別も職業もよく知らないながらも、縁あって一つ屋根の下に暮らすワケあり同士、ゆる~く連帯しながら飄々と生きる住人たちの生態を、全編にわたってオフビートな笑いを漂わせつつ、リアリティショーをのぞき見しているかのような生々しさで描いた映画『コーポ・ア・コーポ』。「いろいろあるけど、まぁええか」とばかりに、しぶとく前向きに生きる人間の底力を描いた群像ライフストーリー。芥川賞作家の西村賢太氏が生前「得体の知れぬ日常を底知れぬ生命力で渉(わた)る。そんな人たちが、ここにいる」と絶賛し、「今読むべき!」と話題沸騰中の漫画家・岩浪れんじによる初の単行本「コーポ・ア・コーポ」を原作に、個性豊かなキャストを迎え、脚本:近藤一彦、監督:仁同正明で実写映画化。人気ブルースデュオのT字路sが、主題歌「愛おしい日々」を手掛けている。

 本作の主演で、主人公・辰巳ユリ役を演じるのは、2015年から2023年まで女性ファッション誌『non-no』の専属モデルを務めながら女優としても数多くのドラマや映画に出演。昨年『恋は光』での演技が話題を呼び、第44回ヨコハマ映画祭で最優秀新人賞に輝いた馬場ふみか。めったに笑顔を見せないが、実は誰よりやさしくコーポの住人たちのことを横目で気にかけている、タバコを吸う関西弁の金髪ロングの女性役で新境地を切り拓いた。
どんなときでもスーツ姿でバッチリ決め、甘いマスクで次々と女を口説いて貢がせるニヒルな男・中条紘役を演じるのは、コミカルな役柄から、多くの社会派作品でのシリアスな役柄まで、幅広く演じる東出昌大。文豪気取りの節回しで住人たちと会話する中条を、独特のオーラで体現する。ニッカボッカ姿で働く若い日雇い労働者の石田鉄平役を演じるのは、NHK朝の連続小説「おちょやん」で主人公の弟を演じて注目を集め、近年は今泉力哉監督や前田弘二監督作品などを始めとする数々の映画やドラマで存在感を発揮する倉悠貴。女にはモテるが、キレると手が出るやっかいな男だが、実はナイーブなところもあって……という複雑な役どころを好演する。さらには、硬軟どんな役柄も見事に演じ切る超ベテランでありながらバラエティ番組でも活躍する名優・笹野高史が、2階の部屋で何やらいかがわしい商売もやっている宮地友三役を、ユーモアとペーソスの絶妙な匙加減で体現。そのほかにも、いつも虚ろな目で「キャスターとマイセン交換しよう」とタバコの交換を住人に持ち掛ける恵美子役を藤原しおり、ユリの弟を前田旺志郎、石田の職場でバイトをする女子大生・高橋役を北村優衣、クラブで働くユリの母親役を片岡礼子が演じ、大阪の片隅で紡がれる人情物語に彩りと深みをもたらしている。

 鍵すらまともにかけず、壁も薄くてプライバシーなどほとんどないが、昔ながらの長屋暮らしのような「コーポ・ア・コーポ」には、「ここから這い上がりたい気持ちはあれど、ここ以外の場所じゃ生きられない。ぼちぼち生きてたら、ええこともあるんや」と思える、あたたかな人情味が溢れている。純喫茶のクリームソーダが「インスタ映えする!」と話題になり、カセットテープや「ウォークマン」といった懐かしの昭和家電もZ世代の若者たちの間で「古くて新しい」とブームになっている令和の時代。「ちょっと覗いてみたいかも……⁉」と思わされてしまう、愛すべき映画が誕生した。

大阪。スカジャン姿で自転車に乗る辰巳ユリ(馬場ふみか)が、とある安アパートへと帰ってくる。そこは、住人たちがゆる~くつながりながら暮らす「コーポ」。お湯もでなけりゃ、風呂もなし。だが、個性豊かな住人同士が顔を合わせるたびに、何かと声を掛け合っている。

宮地友三(笹野高史)が、「管理人さんが家賃回収に来よるで~」「取り立てやで~」とみんなに声を駆けて回ると、すかさず住人たちが外へ飛び出していく。「あぁ……」と呆然とし、外で猫を抱いて寝ていたユリを見つけてこう告げる。「ユリちゃん、山口さん死によった」。

首つり自殺を図った山口をみんなで引っ張り下ろし、警察へと連絡する一方、冷蔵庫や電子レンジなど拾ってきた無数の家電で埋め尽くされた山口の部屋から、欲しいものを見繕う。冷蔵庫のきゅうりを宮地がみんなで分け合うと、石田鉄平(倉悠貴)が「山口さん、首括る前の日、オレんとこに金借りに来たけど、断ってしもた」と言い出した。「オレがなんぼかでも貸しとったら……山口さん、死なんで済んだやろか」と悲嘆に暮れる石田に、「まぁ、そんな気ぃ落としなや、石田くん」「そうやで」「そうだよ」と宮地とユリ、スーツ姿の中条紘(東出昌大)が声をかけるなか、恵美子(藤原しおり)がふらりとやってきて、「石田くん、マイセンとわかば交換しよう」と、タバコの交換を持ち掛ける。どうやら、生前の山口が借金を頼んで断っていたのは、石田だけではなかった様子で……。

【辰巳ユリ】

ある日、コーポの外で猫を抱えて座り込んでいたユリのもとへ、弟のカズオ(前田旺志郎)が突然訪ねてくる。祖母が入院する病院に向かうユリだったが、折り合いの悪い母親(片岡礼子)と鉢合わせ。強烈なビンタを食らう。
ユリは、祖母から借りた専門学校の学費を返すため、居酒屋の店員として働く日々。カズオから、同棲中の彼女が妊娠4か月で出産を希望しているが、彼女には連れ子もおり、「急に父親になれって言われてもな・・・。俺も逃げようと思ってんねん。姉ちゃんも逃げたんちゃう?」と言われ、ユリは複雑な気持ちに。

【石田鉄平】

日雇いの建築現場で働く石田は、女にモテるがキレやすい。父から「自分の限界に気付け、ボケ!」と殴られ、己の不甲斐なさに打ちひしがれる。ある日、職場にアルバイトにやってきた女子大生の高橋(北村優衣)が、石田に借りた雨合羽とタオルを返しにサクランボを持ってコーポを訪れたことから、住人たちと、住む世界が違うはずの清純な高橋の交流が始まる。

【中条紘】

どんなときでもスーツ姿で文豪のような話し方をする。甘いルックスで口説いては、架空の身の上話をでっち上げ、女に貢がせている。廊下でたまたま顔を合わせたユリにも「九州のある島の裕福な家庭で育ったが、父の後妻と駆け落ちしようとした矢先に彼女が自殺してしまい、自分だけ島を出てきた」と身の上を打ち明ける。だが、ユリは本気にしない。

【宮地友三】

コーポの2階でストリップショーの興行師をしながら日銭を稼ぐ日々。カーテンで仕切っただけの畳の部屋で、ろうそくの炎が消えるまでの数分間、「踊り子さん」がストリップを披露する。ある日、契約を終えコーポを去る踊り子から、「なんとお礼をしたらいいか――」と迫られた宮地は「お礼ならいらんで~」と拒みつつ、「それでしたら、どうぞこの火が消えるまで……」とマッチを渡され、息をのむ。

***

ある日、山口が収集した家電をバザーで売り払おうとしていた矢先、彼の息子が遺品を引き取りに来る。一致団結しながらなんとかその場を取り繕い、家電をトラックに詰め込む住人たち。山口の息子が置いていった「心付け」で寿司を取り、コーポの玄関先で宴会が始まる。
「ぼちぼち生きてたら、ええこともあるんや」。愛おしい日々が、今日も明け暮れる――。